2011年

8月

05日

中之作古民家再生プロジェクト


大きな津波の被害を受けたいわき市中之作で、被災した古民家を再生し、後世に引き継ごうという壮大なプロジェクトがスタートした。千年に一度とも言われる未曾有の大震災、そしてその復興の過程で、古きよき港町の風景が次々と消失する中で、その流れに抗い、建物を守っていこうという有志たち。そのプロジェクトの第一歩を取材した。

text by Mariko KENZ, photo by Riken KOMATSU

 

 

津波被害からの復興が叫ばれる中、各地の歴史ある建物が、保存されずに取り壊されてしまうという「歴史の損失問題」が徐々にクローズアップされている。風景や景観をかたちづくり、地域の財産として考えられてきた歴史的な建造物が取り壊されることで、その町の個性が失われ、復興の名の下に、全国どこにでもあるような均質化された町ができてしまうという問題だ。

 

過去の大災害でも、復興を急いだために町の歴史や景観を顧みる機会が失われ、結果的に大手のハウスメーカーの住宅が建ち並ぶ「無表情な町」が形成されてしまったことが問題視された。私たちも、大災害によって港町の風景が失われた光景を目にし、すでに大きな損失感を味わったが、その跡地に無表情な町ができれば、「かつての景色はもう取り戻せないのだ」と二度目の損失感を味わうことになる。

 

いわき市中之作(なかのさく)も、歴史の喪失問題に直面している。中之作は、小名浜の北に位置する古い港町。江戸時代から東北有数の鰹節の生産地として名を馳せたという。今でもカツオの水揚げは盛んで、小名浜と中之作の2つの漁港で水揚げされる量は、全国でも五指に入るほどだ。しかし、311の大震災により多くの建物が被災。100年以上の歴史を持つ建物の多くに「解体・撤去」の張り紙が張られている。

 

いわきの港町を、かつての被災地の二の舞にしてはいけない。いわき市鹿島で建築設計事務所を主宰する豊田善幸さんと、豊田千晴さんの2人が中心となり、中之作に200年続いた商家の建物「忠右衛門の家」を再生・保存しようという壮大なプロジェクトが立ち上がった。7月31日には第1回目のワークショップが開かれ、保存に向けて、大きな第一歩が刻まれた。

 

プロジェクト初日は、午前と午後で20人近くの有志が集まり、ガレキの撤去、ゴミの片付けなどを中心に、かつての姿を取り戻すための作業が行われた。大きなガレキが撤去されると、かつてここにあった生活の痕跡や、建物そのものの素肌があらわになってくる。1階部分では床の抜けてしまった部屋もあったが、2階の全室、1階の居間や建具などは健在で、徐々に明らかになってくる歴史の重みに、参加者一同感嘆の声をあげていた。

 

中でも、太い柱や梁、桁などの構造材は、200年の歴史にも、1000年に一度の揺れにも負けることなく、力強さをまといながら、この大きな家を支えている。「寿命はせいぜい30年」といわれる現代の一般住宅に住み慣れている世代にとって、歴史ある伝統家屋は「宝物」。地域に根付いた古きよき伝統建築を学ぶことができるのも、このプロジェクトの面白さだ。

 

 

再生プロジェクトは、のんびり、少しずつ。縁側で麦茶を飲みながら語らう時間もまた大事。
再生プロジェクトは、のんびり、少しずつ。縁側で麦茶を飲みながら語らう時間もまた大事。
建物の前は、中之作折戸漁港。岸壁を打つ波の音が静かに響く。
建物の前は、中之作折戸漁港。岸壁を打つ波の音が静かに響く。

 

しかし、こうした建物も、地元の人にとっては「普通の景色」と認識されがちだ。特に中之作地区は高齢者が多く、「邪魔だから壊してしまえ」と思われしまう建物も多いことだろう。だからこそ、価値観も、年齢もバックボーンも違う「ソトモノ」の視点が欠かせない。この場所の価値に気づき、面白がることが、人を集め、この場所をより魅力的なところにしてくれる。そうしてはじめて、地元の人も「気づいて」くれるもの。

 

その意味で、この町に流れてきた歴史を汲みながら、建物の所有者や地元の人たちと粘り強く交渉し、自分たちの夢や中之作の将来像を語ってくれるプロジェクトリーダー・豊田夫妻の存在はとても大きく感じられた。2人を中心に人の輪が生まれ、コミュニケーションが生まれていくその光景に「忠右衛門の家」の将来が見えたような気がした。この場所が町の中心になる日も、そう遠くはないのかもしれない。

 

これは、建物の再生などではなく、まさに「まちづくり」なのだ。200年も前の賑わいを取り戻すのは簡単ではないし、人も物も何もかも足りない。けれど、「建築」から生まれるクリエイティブなアイデアが、限りなく「ゼロ」に近い港町に「まちづくりの胎動」を生んでいることに、驚きと感動を禁じえない。ここから何が生まれ、何が発信されていくのだろうか。それを体感するためにも、ぜひ一度、プロジェクトに参加することをおすすめしたい。

 

 

※プロジェクトの詳細は、豊田設計事務所サイト内のブログをご覧ください。

第2回のお知らせなどは、引き続きtetote onahamaでも掲載する予定です。

ぜひお楽しみに。

 

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