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FEATURE

ジャージー名和田の見た小名浜(2)

posted on 2012.6.30(sat)


 

番組の企画で向かった先は、いわき市小名浜。今回私は、TETOTE ONAHAMAといういわき市小名浜をテーマにしたウェブマガジンを主宰する小松理虔さんの仕事をお手伝いすることになった。大事な用があり、大切な方へのインタビューができなくなってしまったという小松さん。そこで、私が小松さんの代わりにインタビューをして記事を書くことになったのだ。生まれて初めてのインタビュー記事。不安を胸に、私は小名浜の町へ飛び出した。

 

 

620日、午前11時。昨日までの荒れ模様が嘘だったかのような晴天のもと、向かう先は小名浜の「エスヘア」。すっきりとした白い壁が目印の理容室だ。ロケ車が店に到着すると、「先にスタッフがスタンバイするので車で待ってて欲しい」とディレクターが一言。私はその指示に従って、車の中で自分の名が呼ばれるのを待つ。

 

一般的にテレビ取材というものは、取材対象者と打ち解けてからカメラをまわすことが多い。しかし、ジャージー名和田の取材では初対面でいきなりカメラを回すことが殆どだ。初対面の方と打ち解けている時間が用意されることはない。人の心に土足でお邪魔しなくてはならない時もある。だから、「ズケズケ物を言う」とか「礼儀知らずな奴だ」とか思われるんじゃないかと、実はひたすら心配している・・・・今回の取材はどうなることだろう・・・・。

 

「じゃー名和田さん行きますか!?」

「は、はい!!」

 

私は、いつもの心配を左手に携えながら、右手に少しだけ力をこめて店の扉を開けた。「こんにちは~!!!」と、最大限の笑顔で挨拶。すると、左手の心配をよそに、店主の菅原暁さんは「こんにちは~」と、にこやかに笑顔を返して下さった。店の中に目を向けると、手前には黒くて上質なソファーがある。普段はお客さんが座っているであろうその場所には、奥様と思しきショートヘアの女性が大事そうに赤ちゃんを抱いて座っていた。

 

その女性は、やはり菅原さんの奥さんだった。聞けば、赤ちゃんはまだ生後6ヶ月という。優しそうな旦那さんに、柔らかな表情の奥さん。初対面だけれど、「このうちの子に生まれてあなたは幸せだね」と赤ちゃんに思わず言いたくなるほど、お二人は今、静かで確かな幸せをかみしめているように見えた。

 

お店の静けさが心地よいのは、幸せいっぱいの二人が出迎えてくれたからだけではない。店の中に置いてあるのは、黒い施術台が2台と、シャンプー台だけ。特別な何があるわけでもない空間なのに、なぜか癒される不思議な感覚がある。心地よい静けさ。緩やかな空気。気ままに香るシャンプー。私は、左手の心配をどこかに置き忘れたように、穏やかな気持ちで菅原さんに話しかけていた。

 

幸せいっぱいの菅原さん家族。
幸せいっぱいの菅原さん家族。

 

今回の私のミッションは、小松さんの手がけるウェブマガジン「tetoteonahama」の取材をお手伝いすること。2年前に小松さんがインタビューした菅原さんに再び話をうかがい、店のこと、震災のこと、人生のこと、いろいろを聞くのだ。店に来る前に小松さんから頂いたアドバイスを頭の中に思い浮かべながら、あいさつもほどほどに、菅原さんに質問をはじめた。

 

「理容師になってどのくらいですか?」

「だいたい10年くらいかな。その前は一般の企業で営業をしていたんですよ。手に職が欲しいな、ということで前から興味があった理容師になったんです。」

「小松さんとはどのぐらい前からのお付き合いですか?」

「3年くらいかな~。店に来ると、tetoteonahamaことや、彼女のこととか話すかな。」

 

菅原さんは椅子に座った1人のお客さんの髭を剃りながら、ひとつひとつ丁寧に答えてくれた。言葉数は決して多くない。でも、それはシャイということでもない。必要な時に必要な分だけの言葉を紡ぐといえばいいだろうか。そんなふうに、菅原さんは静かに語ってくれる。

 

すー、すーっとリズミカルに、そして繊細に動くカミソリ。菅原さんの手は、優しく、そして的確にお客さんの肌を撫でていく。お客さんは私たちの取材に気兼ねしたのか、それとも気持ちよくて寝ているのか、一言も言葉を発しない・・・・。

 

!!!!

 

あることに気がついた。菅原さんにおとなしく髭を剃られていた男性は、その小松さんではないか!!  どうやらスタッフと小松さんが私にドッキリを仕掛けた模様。

 

「こ、小松さんじゃないですか???!!」

「あれ、気がつきました?」

「え~~~!!!!」

 

なんて、テレビで一度は見たことのある定番の会話が繰り広げられる。ふと菅原さんを見ると、満面の笑み。声こそ出さないけどとても楽しそうな顔をしている。

 

お客さんがいたので静かにインタビューしようと思っていたら・・・・
お客さんがいたので静かにインタビューしようと思っていたら・・・・
そのお客さんは小松さんだった!!! というドッキリにもならないドッキリ!
そのお客さんは小松さんだった!!! というドッキリにもならないドッキリ!

 

「2人はいつもどんな会話をしているんですか?」

「UDOK.の話とか、色々だよね。」(菅原)

「結婚の話とかね。彼女のことは出会いから結婚にいたるまで話してますよ。」(小松)

「大体聞いてるかもね~。」(菅原)

 

9月に結婚式を控えている小松さん。「これから結婚して、自分も菅原さんのように子供を持つことになると思います。サトルさんと同年代で、同じように家庭を持って、いずれは子供の学校の話とかして、一緒に年をとって、ずっと話が尽きないんだろうって」。小松さんは、この店との未来を、そんなふうに描いている。

 

「菅原さんは小松さんにいつもどんなアドバイスをするんですか?」と聞くと、菅原さんは「小松君は小松君のやりたいことやりなって、そのくらいかな~」と穏やかな答えが返ってきた。この2人の間を流れる空気は、いつもこうなのだろう。それを感じて、私も思わずほっこりとした。

 

人は誰かに相談を持ちかけるとき、すでに自分の中で答えを出しているときがある。面倒な習性だ。後押しして欲しいだけ。もしかしたら大半がそうかもしれない。無敵の即決主義者に見える小松さんだって、きっと答えは決まっていても、人間だから雨の日もある。小松さんはそっと傘を差し伸べてくれる菅原さんを頼りにしているように見えた。

 

「相手の呼吸を感じて、髪型はもちろん、話す内容や言葉も選ぶかなぁ。まぁ~、店では印象に残らない話はしたくないし。でも一番大事なのはリラックスしてもらうことかな」。菅原さんの小名浜訛りがあったかい。この、適量かつ的確な言葉や、相手の呼吸を感じて拾い上げてくれる深さが、この店独特の暖かみを生み出しているのだろうか。小松さんが、この店を「温泉みたいにリラックスできる」と言った気持ちが、少しわかった気がした。

 

小松理虔さん(左)と菅原暁さん(右)
小松理虔さん(左)と菅原暁さん(右)
2人の手。菅原さんの手はふっくらと、小松さんの手は力強く。
2人の手。菅原さんの手はふっくらと、小松さんの手は力強く。


私は、人と話している時に一瞬の “間” が生まれると、どきっとして “間” を埋めようと躍起になってしまう。それが手垢まみれの言葉であっても。小心者なのかもしれない。でも菅原さんは違った。一瞬の “間” を利用して何かを感じ取っているように見えた。たとえば、その日の気分、体調、悩み、などなど。そして、いつも新鮮な言葉をその人に渡してあげる。感じる力が、突出しているのだと思った。私は、こんなお願いをしてみた。

 

「菅原さん、握手してもらえますか?」

「はいはい。」

 

菅原さんは、少し照れた表情で応じてくれた。どちらかというと華奢な部類に属する菅原さんだが、意外にもその手は厚みを帯びて、親指の付け根はふっくらとしていた。理容師として繊細な技術を発信する手でもあり、奥様と子供を抱き寄せるような柔らかな手だった。

 

「私、美容院で気を遣ってしまうんですよね~。言いたいことが言えずに。若いアシスタントの話とか別に聞きたくないなぁって思うけど、適当に合わせてます。だから気を遣って疲れて、私、何しに行ってるんだろうって。」

「言いたいこと言えばいいんですよ。」

「う~ん、言えない性格なんですよ~。」

「・・・・じゃあ、雑誌とか本とか持ち込んで読んじゃうとか!」

「そっか~!!  じゃあ今度やってみます。」

 

そんなとりとめもない言葉を交わした後、小松さんから「名和田さん、今、言うつもりないけど無意識に悩みを言ってたでしょ?」と言われて、はっとした。私は、収録していることを忘れるほど素になっていたのだ。素になって、菅原さんに話してしまっていた。

 

心に響かない言葉を並べて取り繕うより、心に届くことしか話したくない。そんな菅原スタイルはいつも心の臓を突く。それは、菅原さんに感じる力があるからだろう。相手に呼吸を合わせ、相手の歩幅に合わせる力だ。無駄がないから、無理はしないから、お互い気を遣わずにいられる。きっと菅原さんに髪を切ってもらった人はみな自分の “素タイル” になる。小松さんの髪型が似合っていたのも、たぶん、小松“素タイル” になったからだろう。

 

取材を終え、小松さんと一緒にロケ車に乗り込む。取材時間は1時間。普段、私の髪を切る時間よりも短い時間だ。それなのに、私はなんだかとても心の奥がすっきりと軽くなっていた。まるで、長かった髪をばっさりとショートにしてしまったように。小松さんが伝えたかった菅原さんの魅力が、なんとなくわかるような気がした。白髪になった小松さんの髪を切る菅原さんの光景が目に浮かび、小名浜が少しうらやましくなった。

 

information

名和田 知加(なわた・ちか)

福島テレビアナウンサーとして、県内外の情報を発信。人気番組『サタふく』では、ジャージー名和田として県内を所狭しと駆け巡り、視聴者のリクエストに応え、さまざまなお手伝いを行っている。入社6年目。もっとも将来が期待される若手アナウンサー。

http://www.fukushima-tv.co.jp/announcer/nawata.html

 

text & photo by Jersey NAWATA


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コメント: 1
  • #1

    さとう せいがく (月曜日, 02 7月 2012 10:42)

    とこやさんって、髪を切ったり、髭を剃ったりするだけが仕事じゃないんですね。

    お客さんの気持ちを感じ取って、心を和ませてあげる・・・。それが自然にできるなんてすごい。

    最近のチェーン店になっているとこやさんは、安くて早いけど、何か工場みたいで冷たい感じ・・・。
    菅原さんのお店のような、家庭的であたたかいとこやさんが、ウチの近くにもあればいいのにと思います。

    小松さんも、本職があるというのに、ウェブマガジンで小名浜を元気にしようという心意気、ご立派です。
    結婚されるとのこと、ますますお忙しくなると思いますが、頑張ってください。

    名和田アナの”素”の文章、とっても「素」敵でしたよ。

    「ジャージー名和田」をこれからも応援しています。名和田アナ、ますます頑張ってください!