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オンパクが生むのは 観光の地産地消

posted on 2012.3.21


 

小名浜の隠れた観光資源「工場夜景」を楽しもうというバスツアーが3月20日夜、小名浜臨海工業地帯を舞台に繰り広げられた。小名浜町内だけで全行程3時間。参加者たちは濃密でアンダーグラウンドな小名浜を充分に満喫したようだ。さて今回は、この旅を題材に、小名浜と観光について少しだけ考えてみたい。

 


この企画は、いわき湯本温泉を中心にした地域活性イベント「いわきフラオンパク」の一企画として昨年に続き開催された。いわきフラオンパクとは、「オンパク」つまり「温泉博覧会」としてスタートした地域再発見のためのイベントのフェスティバル。「プログラム」と呼ばれる小規模の体験交流型イベントが数多く集まるのが特徴で、ガイドの案内による町歩きや地域の食材を使った食事会、地元アーティストの演奏会などが行われてきた。

 

実はこのオンパクの手法は、全国の温泉地を中心に取り入れられ、「 JAPAN ONPAKU」という組織もあるほど各地域で浸透し始めている。温泉を中心にした体験型イベントを通して地域の文化や財産を再発見し、まちおこしを通して地域の人たちの「誇り」を醸成していこうという狙いがある。観光客の掘り起こしにもつながるため、旅行客減少に歯止めをかけたい温泉街の起爆剤として期待されているところも多い。

 

中でもこの「いわきフラオンパク」は、数多くのあるオンパクの中でも、廃工場や炭礦跡地などを巡るアンダーグラウンドなヘリテージツアーに重点を置くなど異彩を放っている。今回の小名浜工場夜景ツアーもそうだが、マニアックな目線で徹底的に掘り下げていくことで、「どこにでもあるような風景」ではなく「ここにしかない風景」を発掘しようという狙いがあるようだ。

 

小名浜石油コンビナートの夜景。大畑公園展望台から撮り下ろしている。 photo by Takashi Tokuda
小名浜石油コンビナートの夜景。大畑公園展望台から撮り下ろしている。 photo by Takashi Tokuda

 

今回の小名浜工場夜景ツアーは、前半がバスツアー、後半がカフェでの食事という二段構成となっている。三崎公園頂上のいわきマリンタワーを出発点に、泉町下川の大畑公園を目指し、そこからまた三崎公園に向かって産業道路を戻るというルート。途中、小名浜石油コンビナート、小名浜製錬所、日本海水小名浜工場などの大工場を巡りながら、各ポイントを撮影していく流れになっている。

 

しめくくりの「cafe Uluru」でのディナーでは、いわき市永崎の老舗かまぼこ店「貴千」のかまぼこと、小名浜住吉の広大な農園で栽培されている「サンシャイントマト」を使ったご当地スープが出されるなど、小名浜を意識したメニューが提供された。おいしい料理に舌鼓を打ちながら、カフェでゆったりと写真談義に花を咲かせる参加者たち。小名浜を十二分に満喫した様子だった。

 

 

—工場夜景のポテンシャルを引き出したマニアたちの目線

 

実は、工場夜景ツアーというのは珍しいものではない。平成23年2月には、神奈川県川崎市で「全国工場夜景サミット」が開催され、工場夜景観光を推進している4市(北九州市、室蘭市、川崎市、四日市市)のエリアを、「日本四大工場夜景」とする共同宣言が行われている。宣言に「4市が連携して工場夜景観光の推進・普及に努め、地域の活性化と新しい観光の創造へと繋げる」とあるように、工場夜景は、立派な観光資源として認知されているのだ。

 

工場夜景ツアーの後半、cafe Uluruでの参加者の様子。 photo by Takashi Tokuda
工場夜景ツアーの後半、cafe Uluruでの参加者の様子。 photo by Takashi Tokuda
三重県四日市市の工場地帯の写真。小名浜とは規模が違いすぎる大迫力。 四日市市観光協会HPより
三重県四日市市の工場地帯の写真。小名浜とは規模が違いすぎる大迫力。 四日市市観光協会HPより

 

上の写真は三重県四日市市の工業地帯を撮影したものだ。このスケール感。いかがだろうか。地域の財産どころか、世界にアピールできる観光資源ではないだろうか。かつては「四日市ぜんそく」の舞台にもなった場所ではあるが、四日市市の観光協会も観光の柱と期待を寄せるなど、負のイメージを覆し、観光の目玉として大きく育てていることは実に興味深い。もちろん、室蘭、川崎、北九州も同様に、工場夜景ツアーを観光の柱に据えている。

 

工場夜景ツアーは、前から人気だったわけではない。きっかけは、やはり一部のマニアがひっそりと撮り始めたことだった。画像投稿サイトやブログなどにそうした写真が掲載されるうち、「工場萌え」なる言葉も登場。専門の写真集なども発売されるようになり、各地の観光協会が貪欲にそれらを取り入れていったのだ。工場といえば「危険で近づきたくないところ」というイメージを持つ人も多いだろう。ところがマニアたちはそうではない。危なそうな場所だからこそ面白がり、そこに価値を見出す。まさに逆転の発想がそこにはある。

 

例えば東京の山手線沿線にあるホテルなどでは、かつては電車の音がうるさいと苦情が寄せられていた線路側の部屋を「トレインビュールーム」とすることで、鉄道マニアたちの心をつかむことに成功した。どこでなにが資源になるかわからない時代。掘り起こしのためのヒントの1つが、「マニアたちの目線」にあるのは確かだ。その意味で、アンダーグラウンドなヘリテージツアーに重きを置く「いわきフラオンパク」の目のつけどころは面白い。民間ならではアプローチに、今後大きな期待が寄せられる。

 

みなと大橋そばから撮影した堺化学工業小名浜工場。 photo by Takashi Tokuda
みなと大橋そばから撮影した堺化学工業小名浜工場。 photo by Takashi Tokuda
おもむろにカメラを取り出し撮影する参加者たち。彼らのようなマニアックな目線から観光資源の掘り起しが始まる。
おもむろにカメラを取り出し撮影する参加者たち。彼らのようなマニアックな目線から観光資源の掘り起しが始まる。

 

—歴史、文脈が派生することで、「ここにしかないもの」へ

 

工場にしても廃墟にしても炭礦跡地にしても、ツアーに共通するのは「以前からそこにあったもの」に別の角度から光を当てることで魅力を抽出しようという狙いである。かつては見向きもされなかったものだが、以前からあるものだからこそ、そこには紛れもない歴史が存在し、そこに物語が派生する。そして、「ここにしかない風景」として育っていくのである。炭礦は日本中にあるが、そこにハワイを作ってしまった炭礦はいわきにしかない、というように。

 

小名浜の工場夜景も、四日市と比べたら規模はいかにも小さく、「ちゃちい」ものだと映るかもしれない。しかし、物語を付与することで、その魅力は増す。例えば福島臨海鉄道との関連性。小名浜ソープ街との親和性。そうした「小名浜にしかないもの」を探していけるかどうかが、地域観光の掘り起こしの鍵を握っているのではないだろうか。

 

そこで大事になってくるのは、「日常の風景」と「非日常の風景」を接続することだ。マニアが探し出した風景に、地元の人しか知らない物語をくっつけていく。つまり、マニア目線と地元目線をかけ合わせることが、観光資源の掘り起こしを格段に面白くするということだ。それが、観光客を誘致するだけでなく、「地元の人が地元の生活を誰よりも楽しむ」ということにつながる。「オンパク」の意義も、まさにそこにある。

 

その意味で、こうした工場夜景ツアーのような企画が、オンパク開催期間だけでなく、日常的に開催されていくことがますます望まれる。オンパクが日常になるような、面白いプログラムがいつでも楽しめるようないわきができあがるかどうかは、私たちいわき市民の手にかかっているのだ。私たちが誰よりも先にいわきを楽しんでしまう。観光とは、日常と紙一重なものなのかもしれない。

 

text & photo by Riken KOMATSU


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