Re:vive 高木 市之助さん

ボランティアが、変えてくれたもの

 

震災から1カ月が過ぎ、以前の生活を取り戻す人が多くいる中で、

地震が起きた次の日から、ただ黙々とボランティアを続けてきた人がいる。

高木市之助さんがボランティアを通して感じてきた自分自身の変化は、

この小名浜にも、少しずつ影響を与え始めている

(取材/文:小松 理虔)  

 

 

3月11日。高木さんは、永崎海岸にあるかまぼこ工場で、釜の清掃作業をしていたとき地震にあった。2.5メートルはあろうかという釜がグラついたときは、「誰かがふざけて揺らしてるのかと思った」という。しかし、揺れが尋常じゃないことはすぐにわかった。急いで外に出ると、近所の家の塀は倒れ、液状化のためか、電柱がズブズブと地面に埋まっていく様が見えたのだという。

 

停電したため何も情報源がなかった。血相を変えて車で戻ってきた営業マンが「あと15分で津波が来る。みんな逃げろ!」と叫んでいなければ、高木さんは今生きているかわからない。

 

「急いで高台に上って、そこから振り返って海を見たら、沖のほうに白い波が見えた。住宅地にはもう水が流れてきていて、これはヤバいなって」。津波がいったん落ち着き、家へ帰るため高台を降りると、家がぺしゃんこにつぶれ、車はクラクションを鳴らしたままひっくり返っている様が広がっていた。「地獄絵図だったよね」。高木さんは、重いものを吐き出すように、そう言った。

 

車が通れないため、高木さんは歩いて自宅へと向かっていた。途中、小名浜港のそばで、今度は自分が波に巻き込まれたが、少し高くなっているところにとっさに退避し、命からがら家に着いた。父親と再会。しかし、東京に出張中だった母親とは連絡がつかない。学生時代を過ごした仙台の友人とも、誰ひとり、連絡がつかなかった。

 

長い夜を超え、次の日の朝、おもちゃ屋さんを経営する父と一緒に、店舗のあるいわき・ら・ら・ミュウへと向かった。めちゃめちゃだった。陰鬱な気持ちを抱えたまま家に帰り、テレビをつけると、各地の悲惨な現状が映し出されていた。「仙台の友だちにはまだ誰も連絡がつかなくてさ、そういう映像ばっかり見てると、無事なのかな、大丈夫かなって、心配になっちゃって。正直、気が気じゃなかったよね」。

 

「家にいても気が塞ぐだけ」だと外に出ると、黙々と、道路に落ちたガレキや石ころを拾っている人がいた。気づくと、高木さんも一緒に作業をしていた。「小名浜の町には、震災当時から井戸水を開放したりする人もいてさ、俺には水は出せないけど、とりあえず何かしないとって。じっとしてられなかったんだよ」。高木さんを支えたのは、その想いだけだったという。

 

「正直、なんでボランティア始めたのかわからないんだ」。高木さんはそう言って笑った。「俺は漫画って言えば『ジャンプ』世代だったから『正義は勝つ』じゃないけど、いいことしてれば、ぜったいにいいことあるんじゃないかって」。高木さんはいつも、こんなことを言って笑わせてくれる。きっと、どこか楽しんでいるのだ。

 

たった1人のガレキ拾いは、ツイッターでの出会いを通して輪が広がった。物資の提供、炊き出し、ガレキ掃除、情報収集。今日の今日も、高木さんは被災地を奔走している。「ボランティア始めて、人との出会いに救われた。前向きな動きをしてると、前向きな人たちと出会えるんだよ、きっと」。高木さんのすぐ後ろでは、小名浜災害ボランティアセンターのスタッフたちがテキパキと作業をしていた。

 

「平和なときってさ、誰かと会っても、この人何考えてるかわからないからな、って、すぐに話しかけたりはできないもんだけど、震災後は、誰かと話す恐怖心が全然なくなって、震災をキーワードにして、身の回りの人と深いコミュニケーションができるようになった。子どもたちにも声をかけたり、お年寄りにも、大変ですねって声を掛け合ったり」。それこそ、高木さんが感じた、自分自身の変化だという。

 

今後、どう生きていきたいかを聞くと、笑いながら「自分が体験したことを自伝にまとめてさ、英語と日本語で書きたいと思ってるんだ。それがいずれベストセラーになって、印税で堤防を作る。で、それを若者に伝えていけたらいいよね」。高木さんのこの飄々とした笑顔が、いったいどれほどの人を救っただろうか。

 

「なにかしなくちゃ」。高木さんと同じように、そう考えていた人たちが、1人2人と手を繋ぎ、やがて大きな輪になっていく。これまで見向きもしなかった人たちがいつの間にか集まり、気づけば仲間になっている。高木さんが感じてきた自分自身の変化とは、まさに、この小名浜にも起きている変化なのだ。「がんばっぺ!」。握手して交わしたその言葉には、重みがあった。それは、高木さんが体験してきた出会いや絆の重み、そのものだ。

 

 

2011.4.23 up

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info 小名浜地区災害ボランティアセンター

市内のNPO法人と有志によって結成されたボランティア集団。自治体では対応しきれないようなローカルな地区で、独自のネットワークを活かし、きめ細やかな支援活動をしている。高木さんは、その立ち上げメンバーのひとりとして、ボランティアの最前線に立ち、小名浜復興のリーダーシップをとっている。