Re:vive 高羽 努さん

いわきに生まれる希望を、撮り続けたい

 

「自分のなすべきことは何か」。震災以降、この問題と直面している人は、多いはずだ。

映像制作会社の代表を務める高羽努(たかば・つとむ)さんも、その1人。

被災地にカメラを向けることの葛藤に悩みながら、3月11日から今日まで、

毎日のようにカメラを回し続けている。

(取材/文 : 小松 理虔)

 

 

3月11日。高羽さんたちは、社員4人で映像の編集作業にあたっていた。普段はブライダルの映像を中心に撮影をしている小さな映像制作会社のオフィス。編集室のモニターには、いつものように、誰かの幸せな一瞬が流れていた。その日の、午後2時46分までは。

 

突然、パソコンがガタガタと揺れ始め、神棚から物が落ち、これまで体験したことのない大きな揺れが、高羽さんたちを襲った。「とにかくみんなを落ち着かせて、それから外に出たんだけど、そのあたりの家の塀は倒れてて、いくつか地割れができてた。とりあえずそこでカメラを回して、これならそう被害者が出るようなことにはならないだろって思った。でも、事務所に帰ってテレビをつけて、愕然としたよね」。

 

テレビの画面からは、東北の港町が波に飲まれる映像がこれでもかと繰り返し放映された。各地のリポーターたちが、慌ただしく被害情報を中継で伝える。それを遮るように、緊急地震速報のアラームが鳴り響く。そして、各地の様子が明らかになるにつれ、高羽さんの故郷、小名浜の映像も流れはじめていた。

 

「その時はツイッターも情報源にしてたんだけど、どれもこれもネガティブな情報ばっかりで、俺はもうポジティブなことしか言わねえぞって思って、明るい話題だけを発信するようにしてたんだ。でも、ほんとは、あんな映像見せられて精神的にも参ってたし、正直、泣きそうだった」。

 

震災から2日後、暗澹たる気持ちを抱えながら、それでも高羽さんはカメラを持ち、小名浜の港へと向かった。「仕事でもなんでもないけど、自分にやれることは何か考えたら、それしかなったんだよ。確かに気は乗らなかったけど、伝えるべきことはあるんじゃないかって」。映像マンとしての誇りが、現場へと足を向かわせていたのかもしれない。

 

しかし、そこで目の当たりにした残酷すぎる現実は、高羽さんの想像を大きく超えるものだった。「正直、終わった、、、って思ったよね」。

 

高羽さんが愛する「いわき」を発信しようと制作した「いわきサンシャインTV」のYouTubeチャンネルには、そのときに撮影された映像がアップされている。何度も通ったチーナン食堂を前にした高羽さんの、その言葉にならない叫びや慟哭が、すべてを物語っていた。

 

 

「どうがんばっても、この先ハッピーが待ってるわけじゃないって思った。この映像見て、喜んでくれる人なんていないんじゃないか。俺、何やってんだろうって、そういう気持ちは常につきまとってたよね」

 

小名浜の後には、さらに被害のひどかった豊間や薄磯にも向かい、被害の状況をカメラで押さえた。「もう、あの現場の酷さは、、、、言葉に出ないよね」。 そういって高羽さんはため息をついた。それでも、「あなたが撮ってくれたおかげで、ふるさとのことがわかった」と、感謝のコメントを残してくれた人も少なくなかったという。高羽さんは「ほんとうに救われる思いだった」と、声を震わせた。

 

視聴者からの励ましを心に秘め、高羽さんはまた、深い自問を続けることになる。「自分に何ができるのか」、「自分は何をすべきなのか」。高羽さんは、迷いながらも、またカメラを手に取った。

 

「いわきを、撮り続けよう。いわきの、ポジティブな気持ちを、復興の一歩一歩を、刻んでいこう」

 

そう心に誓うことができたのは、「仲間たちの存在があったから」だという。「地震があってから連絡も取れずに、みんなバラバラになっちゃったでしょ。俺も、みんなも孤独だったと思う。でも、震災後しばらくしてみんなが少しずつ集まって来たとき、ほんとに心強くて、1人じゃないって思えたんだよね」

 

高羽さんは、そんな仲間たちの笑顔を撮影することで、復興への足跡を綴ろうと考えている。「正直、これからこの会社をどう続けていけばいいのか、わからない。収入がほとんどないんだから。でも、いつか、この震災の映像が必要になる時期がくると思うんだ」。高羽さんの笑顔が、心強かった。

 

原発などの風評被害もあり、いわきの観光や産業は、ますます難しくなることが予想されている。しかし、高羽さんは前向きだ。「いわきの中に、今の生活を楽しく送る人が増えていったら、それを見た人たちが、あ、いわき、大丈夫じゃんって、楽しそうだなって思ってるくれるかもしれない。笑顔を撮ることが、復興のためにも、風評被害を打ち消すためにも、大事だと思うんだ」。

 

インターネットによる映像の発信がますます盛んになるなか、いわきサンシャインTVが発信する情報の価値は、ますます高くなっていくはずだ。そして、そのチャンネルには、今よりもっと多くの「笑顔」が綴られていくことだろう。その証拠に、いわきサンシャインTVのチャンネルには、各地の笑顔が続々と配信されている。

 

 

2011.4.3 up

 

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info  いわきサンシャインTV

いわき市の食、文化、人を独自の視点で紹介しているウェブテレビ局。主にYouYubeなどで映像を配信、いわきの今を伝えている。運営するのは、いわき市鹿島の映像制作会社Cinema Graphic Campany。高羽さんは、同社の代表を務めている。twitter @iwakisunshineTV

 

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コメント: 3
  • #1

    嵐まま (金曜日, 08 4月 2011 00:02)

    感動しました。いわきの誇りにおもいます。きっと大丈夫。笑顔でまた会いましょう!

  • #2

    堀越あみ (金曜日, 08 4月 2011 09:07)

    神奈川県でこのサイトやサンシャインTVの映像を拝見しています。
    小名浜は86歳になる父の故郷で、祖母は豊間の出身です。生まれも育ちも東京の私ですが、子供のころにはよく小名浜の父の実家に行きました。夏は豊間の冷たいけど美しい海で遊んだものです。父は今身体が不自由で介護施設にいますが、遠く離れたふるさとのことをとても心配しています。そんな時このサイトを見つけ、父に見せることができました。画像や映像には悲しい現実が映っていますが、温かく力強い人々の心や姿も見ることができ、父は心から感動した様子でしす。
    これからも復興にはたいへんなことが多々あるかとは思いますが、元気に前向きにこのような活動を続けていかれることを切に願っております。

  • #3

    新津正人 (日曜日, 10 4月 2011 08:02)

     まず、被災された皆さまに心からお見舞いを申し上げます。

     高羽さんのご活躍をテレビで拝見し、「高羽努 小名浜」で検索したら、このページがすぐ出て来、映像を拝見する事が出来ました。

     カメラを構えて高羽さんは、小名浜出身者としていろいろお悩みのようですね。
     しかし、高羽さん、あなたの映像撮影は極めて大事で、社会的に意義のあることです。それは「歴史の記録者」だからです。マスコミがとらえきれない、出身者ならではの視点とナレーションは、後世にきっと役立ちます。撮りまくってください。

     とくに、復興に向かう皆さまの力強い「決意」の言葉、「今でなくては」撮れない映像、マスコミではなくて「現地出身者の目から見た」映像とナレーションを出来るだけ長く撮影して欲しいと思います。これは日本、いわき市、小名浜の歴史なのです。

     小さな注文としては、映像と音声は記録できますが、「臭い」についてはあまり分かりません。街の臭い、壊れた住居の臭い等々、ナレーションで是非入れてください。

     いつも通りのご飯が食べられ、暖かい寝具に寝ている身としては、大変恐縮なのですが、ご健闘を祈念いたします。