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SUPERLOCAL interview

西丸 亮

まちづくりを拓く、地産クリエイティブ

福島出身の学生たちも思いの丈を語った。
福島出身の学生たちも思いの丈を語った。

 

ーまちづくりは2%の人で行われている

 

正直、まちづくり会議などに集まってくるのは関心のある限られた人ばかり。いつも同じ顔ぶれで、一部の人だけでまちづくりを完結させてしまうような感じでした。印象を言えば、98%の人はまちづくりに関心がなく、残りの2%でやっているというような。

 

まちづくりと言うと「市民活動家」のようなレッテルを貼られてしまい、住民のほうから避けられてしまうこともあります。ただでさえそういう状況なので、その頃から、意識のある2%のほうではなく、残りの98%をどうしたらいいかということを考え続けてきました。

 

例えば、いわき駅前のラトブでいわきのビジネスパーソンを招き、いわきの魅力を再発見しようというワークショップを開催したことがありましたが、それもやはり「残りの98%をどうするのか」というテーマが根底にあったからです。

西丸へのインタビューはSkypeで行った。
西丸へのインタビューはSkypeで行った。

 

 

 

先日開催された、福島出身というだけで集まれる「あづまっぺ会」という飲み会も、ゆるいイベントを通して地域に興味を持ってもらうきっかけを作りたいと考えているからです。おかげさまで、かなり多くの福島県人に参加してもらえ、手応えを感じています。

 

いわきのワークショップでは、福島のどんなところがいいのか、逆にどんなところが問題なのかを洗い出し、自分なりに社会の問題にアクセスして、それを解決しようというところまでやってみました。

 

参加者の一人は、「いわき市の市街地でお酒を飲んでも家に帰る手段がない。夜間バスがあれば、もっと市街地に人の流れができるのではないか」と思い至り、バス会社に直接要望書を手渡すという「行動」にまで発展したんです。「残りの98%」にどう届けるかが勝負なんだと、改めて感じさせられました。

 


 

—かっこよくなきゃ動かせない

 

残りの98%の人の心に届くには、どうすればいいか。その肝が、「私的関心」と「かっこよさ」だと西丸は言う。音楽、スポーツ、アート、趣味など自分の興味のあるものから自分たちを取り巻く社会のことを考えるほうが、よりリアルに社会と接続できるからだ。

 

各地のサーファーが、地元の海や砂浜の清掃活動を積極的に行ったりしているのが一番わかりやすい私的関心です。サーフィンがきっかけになって、結果的にまちづくりに参加している好例ですよね。

 

また、福島市の十六沼公園にはスケートボードパークがあるんですが、実はこれ、「福島市十六沼公園スケートボードパーク条例」という条例がきっかけになって誕生しているんです。若い世代が、自分たちの町を大好きなスケボーの町にしたいと望んだことで、条例ができるまで運動が大きくなったんです。

 

私的関心には、音楽やファッション、クルマなどいろいろありますが、その中でも大きなフックになるのが「クリエイティブ」だと僕は考えています。だって、デザインされたものって単純に「かっこいい」じゃないですか。

 

単純に広告業界など1つとっても、多くの大学生にとって憧れの進路先ですし、最近では、建築家や写真家だけでなく、クリエイティブディレクターやアートディレクターなど、かつては裏方とされてきた人たちがメディアで取り上げられています。

 

 

 

 

 

もし、まちづくりとクリエイティブが結びついていたら、そのかっこよさ、デザイン性が大きなフックになる可能性は高いと思うんです。

 

もう1つ。クリエイター自身のかっこよさです。地方のまちづくりに携わっている人たちは、ちょっと地味な印象ですよね。やっぱり、その人自身がかっこいいとか、自分のスタイルを持っているかどうかというのは、多くの大学生を巻き込む上でとても重要です。

 

話をまとめると、若い世代をまちづくりに呼び込むには、私的関心から公共的課題をどう結びつけるかが鍵となり、その結びつけ方に「かっこよさ」が必要だということです。


十六沼スケートボードパーク。ボーダーたちの思いが結実した。
十六沼スケートボードパーク。ボーダーたちの思いが結実した。

 

—まちづくりを拓くクリエイティブ

 

西丸が言いたいことは、地方でのクリエイティブは、まちづくりと接続されることで、より力を発揮するということ。確かに、東京ほど最初から「シゴト」として成立はしにくいかもしれないが、お金ではなくふるさとへの思いが「資本」になりうる。

 

また、地方に眠るものをデザインの力で再構築したり、写真や絵画の力でふるさとの魅力を発信したりと、地産クリエイティブに求められるものは少なくない。さらに、クリエイターの存在そのものがフックになり、学生のUターンやまちづくりへの参加を促すことができるのだとすれば、その役割はさらに大きなものになる。↗

 

あづまっぺ会。福島出身者が大勢集まり、語り合う。
あづまっぺ会。福島出身者が大勢集まり、語り合う。
2010年12月に行われたイベント。西丸はファシリテーターとして参加。
2010年12月に行われたイベント。西丸はファシリテーターとして参加。

 

 

 

実際のところ、僕たちは何かのデザインをしたり、作品を残したりできるわけじゃありません。ましてや、地元から離れた東京にいます。だから、地域で活躍しているクリエイティブな人たちと東京の学生をつなげる役割も面白いと思います。

 

僕自身、いわきや小名浜で活躍している先輩たちがいるからこそ、また地域への関心もやモチベーションを高めることができました。そういうアプローチを、僕たちはやっていきたい。

 

ハードルが高いように思えたまちづくりですが、クリエイティブな視点を通すことで「誰でもできるアクションなんだ!」と思ってもらえるようなきっかけになる思うんです。高尚な議論なんていらないんですよ。身近なことから疑問を持つこと。そのフックに、地産クリエイティブがなれればいいですね。

 

僕たちは、外側から内側のことをあれこれ言うのはおこがましいかもしれません。でも、はじめて客観的にふるさとを見れるようになった大学生だからこそ、その壁の存在を問い続けることで、学生同士の関心を高めることができる。

 

そして、問題意識を高めた学生の中から、地元に帰ってクリエイティブな活動をするという人が1人でも生まれればいいと思うんです。そして、そういう流れを止めないことが、今後のiupsの大事な役割になると思っています。

 

西丸が小名浜のヤンキー友達と付き合ってきたからこそ見えた壁。その壁からすべてが始まり、今やその壁は、西丸たちの活動を支えるほどのものになっている。誰しもが感じる壁を、劣等感や優越感ではなくむしろ「かっこいいもの」や「誇り」にデザインしていく。

 

西丸の頭の中には、地産クリエイティブが拓くまちづくりのビジョンが、はっきりと描かれているようだ。頼もしい大学4年生の言葉に、小名浜の明るい未来を見た気がした。西丸がデザインする「まちづくり」、じっくりと見ていきたい。

 

(終)


 

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TEAM iups

http://iups.jimdo.com/

 

 

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